「どうしたんだ?」
一人、夕焼けを眺めていたら彼が話しかけた。
「なんでもないよ。」
私は彼に微笑みかけた。
彼もそっと微笑んだ。


何もない世界



あの世界には何もなかった。
あの世界に私が望んだものはなかった。


私は独り。
暗い部屋の中。
私はあの時この命の誕生を望んでなかった。


生まれないほうが良かった。
生きていく理由のないこんな毎日。
こんな命いらなかったのに。

毎日、そう思っていた。


毎日。
狭い檻の中。
慌しく動き回る研究員。

私はただそれを見ているだけ。

それを見ながらいつも同じことを考えていた。


私の世界には何もない。



檻の中から見える夕焼け。
すべてが寂しげで、どうすることもできなくて。
私にもっと力があればここから抜け出せるのに。
でも、どうにもならなかった
独り、檻の中にうずくまっていた。

愛なんて知らなかった。

「何のために私を作ったの。」

そんなことは愚問だったから。

実験動物なんて嫌な響きだけど。

実際にそうだったから



そんなある日。
私はその日も檻の中。
たまたま実験が失敗した。
目の前に、赤いものが見えた。
何なのかわからなかったけど。
いつか私もあんなふうになるのかなっと思うとたまらなく怖くなった。



無常感。

常にあるものはない。

だから、あの日来たんでしょう?



彼が来たのは、ずっとずっとあとのこと。
彼はいきなり来るなり、私が欲しいと言い出した。


私は買われたのだ。


「君は幸せ?」
「・・・」
でも、買われたことなんてどうでもいい。
お金が何だっていうの。
私は、あの『何もない世界』から抜け出せたことだけで十分。
「幸せだよ。」
「そっか。」
彼はそっと私に笑いかけてくれた。


私が望んだものは・・・。
他のなんでもない。
私のことを見てくれる人。
どんな形の出会いだったとしても。
私はそれで幸せだから。


私には何もない世界なんてない。
この命に素直に感謝をいえる。
不安も、私の世界にはない。
「貴方に会えてよかった。」
私がそういうと彼もうなずいた。


あの世界には希望も何もなかったけれど。
この世界には絶望なんて無いようにと願うから。


少しでも長く、絶望の無い世界にいさせて・・・・。










管理人より

ここのサイトの開設祝いとして頂きました。
「何もない世界」というのは、私が作っていたお題の4番目の言葉で、
それを使ってくれました!(感激!)

ありがとうございます!本当に!
即、アップです。

みずなさんによると、この女の子は異世界の子で、作られた子。
どんな理由であろうとも、研究所から抜け出せて幸せで
ヒロインにとって彼は一筋の光、みたいな感じらしいです

とても上手く表現できていてすごいなと感心いたしました。

また良かったら頂きたいなぁなどと(ぉぃ)